家電機器や工業機械など、さまざまな機器から発生している電磁波の影響によって、誤作動や故障など、性能の劣化を招いてしまうことが多くあります。
この電磁波による電子機器の性能劣化はEMI(electromagnetic interference)と呼ばれており、これを防ぐための環境を指し、EMC(Electromagnetic Compatibility)、または電磁環境両立性と言います。
また、これらの電気機器のトラブルは電磁波のノイズが原因となって起こるものになるため、EMC対策は「ノイズ対策」とも呼ばれています。
不要電磁波による性能の低下は、時には重大な事故を招いてしまうこともあるため、電子機器にあふれている現代ではEMC対策は非常に重要なことだと言えるのです。
「ノイズ」について
現代の世の中は、多くの電子機器であふれています。
そのため、電子機器の機能低下を招く「ノイズ」も至る所に存在しています。
ノイズの発生源は大別して「自然発生するノイズ」と「人口ノイズ」に分けられます。
「自然ノイズ」は、
・落雷
・空間放電
・磁気あらし
・宇宙線
・地雷流
などを指し、静電気などの空間放電や落雷を含め、自然発生するものを指します。
一方「人口ノイズ」は、
・掃除機
・エアコン
・テレビ
・携帯(スマホ)
・Bluetooth
・工業機械
などを指し、家電製品やスマホなど、人口的な電子機器のほとんどから発生する可能性のあるものです。
1980年代から電磁波の影響に関しては問題視されており、デジタル技術の進歩とともに、この問題は深刻化しています。
EMC対策では、これらのノイズを発生させないような設計(EMI対策)とノイズの影響を受けにくくする設計(EMS=電磁気妨害感受対策)の両面から考えていかなければなりません。
それでは、EMC対策の具体的な方法にはどのようなものがあるのでしょうか?
EMC対策の基本
EMC対策では大きく分けて、
- シールド
- 反射
- 吸収
- バイパス
という4つの観点から原因や対策を考えていきます。
これらは「EMCの4要素」と言われていて、これらはEMC対策を考える際の基本手法ともなっています。
これらの4要素はどのようなものなのでしょうか?
シールド
安定電位で囲うことによって、周囲にノイズをまき散らさない、または周囲から影響を与えられにくくするもの。また、電磁吸収シートなど使用したシールドの場合、熱変換して余計なエネルギーや不要電磁波(ノイズ)を小さくします。
EMC対策の際の部品の例としては、金属板、電波吸収シート、ガスケット、導電テープなどが挙げられます。
反射
反射してノイズを防ぐことによって、不要な部分にエネルギーを伝えない、または周囲からの余計なエネルギーを内部に入れないためのもの。
EMC対策の際の部品の例としては、インダクタ、LCフィルタなどが挙げられます。
吸収
余計なエネルギーを熱変換し吸収することでノイズのレベルを下げる、または周囲からの余計なエネルギーを吸収することで内部を保護するためのもの。
EMC対策の際の部品の例としては、抵抗、フェライトビーズ、電波吸収シートなどが挙げられます。
バイパス
余計なエネルギーを分離することによって不要な部分にエネルギーを伝えない、または周囲からの余計なエネルギーを分離することで内部に入れないためのもの。
EMC対策の際の部品の例としては、コンデンサ、バリスタ、ダイオード、LCフィルタなどが挙げられます。
EMC対策の具体的な方法
EMC対策の基本は先程の4要素となっていますが、それでは、実際の対策はどのような方法で行われるのでしょうか?
簡単な例を挙げながら解説していきます。
対策方法:シールド
「シールド」という単語からもわかるように、部品を囲ってしまって周囲への影響や周囲からの影響を防ぐものです。
対策としては非常にシンプルで、簡単そうに思えますが、実際にはそう簡単に済まないことがほとんどです。
電磁波は、周波数が低い場合は大きなすき間がないと漏れていかないですが、周波数が高くなると、ほんの小さなすき間からでも漏れてしまいます。
そのすき間をつくらないようにシールドを設置するのですが、放熱やコスト、ほかの機器との接続上の問題があり、完全に押さえることはほぼ不可能です。また、グランドとの接点の取り方によっても、同じシールド部品を使っても効果に大きく差が出ることがあります。
また、他の手段で上手くいかなかった場合にシールドを試みるケースも多いのですが、その場合、ほとんどは理想的なシールドが困難でガスケットや導電テープを駆使して、何とか抑えることが多いです。
想定外のコストが大幅にかかってしまったため、製品をリリースしたあとに、コストダウンを目的に再設計を余儀なくされるケースも多くあります。
対策方法:反射
電子機器の設計においては、必要な信号をいかにロスなく伝達するかが重要です。
反射とは、信号の送り手側と受け手側の電気的相性の不整合から起きる現象で、その信号が受け手側か反射されて送り手側に戻る現象のことです。
この現象を利用して電子の伝わりやすさを操作し、ノイズのみを反射し、外部へのノイズの伝達、もしくは内部へのノイズの伝達を防止することができます。
部品としては主にコイルが使用されますが、反射を目的にコイルを使う場合、周波数により必要か不必要かを判断します。
また、反射とこれからお伝えする吸収を合わせて使うことで、より効果的な活用が可能です。
コイル以外にも、周波数に応じてインピーダンス(電気の通りにくさ)を高くして、ノイズを反射させる部品は利用することができます。
コイルとフェライトを併せて吸収の効果も合わせ持ったものを、フェライトビーズといいます。
また、周波数では分離できず、ノイズのモードに応じて反射と吸収で対策するコモンモードフィルタなども存在します。
対策方法:吸収
4要素の中で、ノイズのエネルギーを自体を減らせる方法が、この吸収です。
ノイズを熱エネルギーに変換することでそのエネルギーを減衰させる効果を持っています。反射でもご説明したように、フェライトも抵抗成分によって吸収することが可能です。
反射と吸収の具体例のひとつに、「ケーブル」が挙げられます。
ケーブルは、アンテナを形成し多くのノイズを発生させることがあります。
その影響を受けないようにケーブルの基板側にフェライトコアを巻いたり、ケーブルを接続しているコネクタの近くにフェライトビーズを配置したりします。これによってケーブルにエネルギーを伝えにくくし、同時にケーブルからのノイズを防止します。
対策方法:バイパス
バイパスは、さまざまな要素で選別してノイズを分離します。
要素としては、周波数や方向、電圧が一般的です。
最も多く使われるものとしてコンデンサがありますが、コンデンサは周波数に応じて電気を通したり、通さなかったりする役目を果たします。
それによって、余計なところにエネルギー(ノイズ)を伝えない役目を果たします。
しかし、バイパスできたとしても、その余計なエネルギーは消失したわけではありません。阻害されたノイズは元の回路に戻っていくことになりますので、どこにどのように戻すのかによって大きく効果が変わってきます。
EMC対策の重要性
ここではEMC対策の方法について説明してきました。
複雑な対策や難しい単語が多く、EMCと聞くと専門的な内容ばかりだと思われる方も多くいます。
しかし、電子機器にあふれた今の世の中では、ノイズによる電子機器の機能低下は誰にでも関係のあることです。
以前から、一般的な電子機器の通信障害から、スマホなどによる医療機器の誤作動、オーディオプレイヤーによる航空機内の機器の誤作動、エレベーターの異常動作など、人命にかかわる事故も発生しています。
今後のIT社会において、EMC対策・ノイズ対策は電気産業界の急務ともいえるでしょう。
参考サイト